【日産】シルビア(初代S310型)
フェアレディ1500をベースに、クローズドボディを載せた2シータークーペのシルビア。流麗なスタイリングを実現したボディパネルの造形は、熟練の手作業により生み出されました。
非常に高価だったこともあり、商業的に成功したとは言えない結果でしたが、国産車の歴史の中では重要なクルマの1つに位置付けられています。
【日産・シルビア(初代S310型)の歴史】
1962年に登場したダットサン・フェアレディ(2代目S310型)は、ブルーバード(初代310型)のシャシーを補強して流用し、セドリック(初代30型)用の1.5Lエンジンを搭載して最高速度150km/hを実現したオープンモデル。国内ではまだ高性能スポーツカーに庶民が手を出せる時代ではありませんでしたが、小型スポーツカーが流行していた北米では、高い人気を獲得しました。
次の時代を見据えた日産は、より快適でより高性能なクルマを開発すべく、フェアレディをベースにしたクローズドボディのクーペを開発。
1964年の第11回東京モーターショーに「ダットサンクーペ1500」が出展された後、エンジンを1.6Lに変更して1965年にシルビアとしてデビューしました。
シャシー周りはフェアレディと共通。ブルーバードのものをXメンバーで補強したラダーフレームに、前輪ダブルウィッシュボーン、後輪リーフスプリングのサスペンションを採用。また、フロントには日産初のディスクブレーキが装備されました。
前述のようにエンジンが新開発され、「R型(直列4気筒OHV・1595cc)」を搭載。SUツインキャブを装備して90psを発揮しました。1か月後にはフェアレディにも搭載されたほか、ブルーバード(2代目410型)にもSSSグレードに搭載されました。
トランスミッションはフルシンクロメッシュの4速MTで、クラッチは日産初のダイヤフラムスプリング付きを採用しました。
美しいボディラインは「クリスプルック」と呼ばれるもので、直線を基調としながらも、継ぎ目を極力減らし、まるで宝石のカットをイメージさせる造形が特徴。ロングノーズ・ショートデッキのノッチバッククーペで、その洗練されたスタイルは、国産車のみならず、欧米車にも見劣りしないほどでした。
プレスによる大量生産は当初から想定されておらず、ボディパネルのほとんどは熟練の手作業によって造り出され、セミハンドメイドで生産されました。
インテリアは、フェアレディのオープンカーらしいものとは全く異なるデザインが採用され、クローズドクーペに相応しいスポーティなもの。ウッドステアリングの先には5眼の計器類を備え、操作レバー類はセンターコンソールを中心に配置。ストロークの短いシフトレバーに、リクライニング付のバケットシートなども特徴でした。
1965年4月に発売され、当時の価格は120万円。これは、当時のセドリックの最上級グレードよりも20万円ほど高価なもの。
美しいボディスタイルとは裏腹に、乗り心地や操縦安定性などは、当時の国産車の域を脱しないものであったこともあり、販売成績は低迷しました。
その後1968年6月に生産終了し、約3年で554台が生産されたにとどまりました。ここでシルビアの名は一旦途絶えましたが、1974年に2代目S10型が復活。コンセプトは大きく変わり、サニー(3代目B210型)をベースにするスペシャリティカーとなり、その後、特に5代目S13型は「デートカー」として絶大な人気を誇るモデルへと成長しました。
美しいスタイリングで華々しくデビューを飾ったシルビアは、当時としては非常に高価。マイカー時代が到来する前に、高価なスポーツカーは売れるはずもありませんでしたが、「技術の日産」を象徴するクルマとして、ブランドイメージの向上につながりました。フェアレディがベースながらも、「ダットサン」とせずに「日産」としたあたりにも、日産の看板を背負っていたことが伺えます。
【諸元】
日産・シルビア(初代S310型)
全長×全幅×全高 | 3985mm×1510mm×1275mm |
ホイールベース | 2280mm |
乗車定員 | 2名 |
エンジン | R型 直列4気筒OHV 1595cc(90ps/6000rpm) |
駆動方式 | FR |
トランスミッション | 4MT |
タイヤサイズ | 5.60-14 4P |