【いすゞ】ビークロス(UGS25型)

乗用車市場から撤退してSUVメーカーとなったいすゞが、1997年に発売したビークロスは、「全天候型スポーツカー」という方針のもとで開発されたスペシャリテSUV

現代でいうクーペSUVにも通じる、奇抜なスタイリングなどから販売は低迷。登場が少し早すぎました。

 

 

 


いすゞ・ビークロス(UGS25型)の歴史】

 

 

いすゞは1993年に乗用車の自社生産を取りやめ、ジェミニ(3代目JT151/191/641型)やピアッツァ(2代目JT221型)の生産を中止。ビッグホーン(2代目UBS25/26/69/73型)やミュー(初代UCS17/55/69型)といったSUVに専念することとなり、「SUVスペシャリスト」として生きる道を選択しました。

いすゞがそれまで作ってきた乗用車は、ベレットや117クーペジェミニ、ピアッツァなど、大手メーカーの万人に好かれるクルマとは一線を画す、独創性に溢れるクルマでした。
そのマインドをSUVにも生かし、新しいジャンルのクルマが必要と考えたいすゞは、「全天候型スポーツカー」というコンセプトを打ち出して新モデルを開発。1993年の第30回東京モーターショーに参考出品された「ヴィークロス」がそれでした。

この時のヴィークロスは、ジェミニの4WD車用シャシーを流用した上で、悪路走破も可能な最低地上高を確保するため、サスペンションをロングストローク化。アルミやカーボンなどを多用して軽量化を図り、ジェミニ用の1.6Lエンジンをベースにしたスーパーチャージャーエンジンの搭載が計画されました。
ラウンディッシュなフォルムが特徴的なスタイリングは注目を集め、来場者の好反応を受けて市販化が決定しました。

量産化に向けて、既に乗用車の自社生産は終了していることから、シャシーは、ビッグホーンのショートホイールベースラダーフレームに変更されました。
サスペンションは、フロントにダブルウィッシュボーン式、リアに4リンク式を採用。オイルタンク別体のショックアブソーバーを採用し、固めで減衰力の高い足回りとしました。ビッグホーンのラリー車からフィードバックされたものであり、これによってスポーティな走りを実現。

エンジンは、ビッグホーンに搭載されていた「6VD1型(V型6気筒DOHC・3165cc)」を改良。高出力化や低燃費化、低騒音化などが施され、215psの最高出力を実現しました。
1998年にモデルチェンジされたウィザード(2代目UES25/73型)に先行して搭載された形となりました。
トランスミッションは4速ATのみの設定で、MT車は発売されませんでした。

ボディタイプは3ドアのみで、コンセプトモデルの基本デザインを踏襲。未来的とも言えるラウンディッシュなスタイルに、ボディ㈱には高強度ポリプロピレン樹脂パネルを使用して、スポーティなSUV感を演出。リアゲートに背負うテンパータイヤにもアルミホイールが備わりました。

内装には、ミュー用のパネルを流用しつつ、質感やカラーリングを工夫してオリジナリティを出した上で、MOMO製本革巻ステアリング、レカロ製バケットシート、カーボン調パネルなどを装着して、スポーティさを醸し出しました。

 
 
 
この投稿をInstagramで見る

kiyo(@kland_papa)がシェアした投稿

1997年4月に発売。車名は「ビークロス」に変更され、モノグレード展開。「オールラウンドリアルスポーツ」のキャッチフレーズでデビューしました。
それまでのSUVにはなかった個性的なスタイリングが注目を集めただけでなく、ビッグホーンよりもパワフルな走りや足回りなど、コアなファンにも好反応でした。
しかし、一般ユーザーにはその独特なスタイルが敬遠され、販売は低迷の一途を辿ります。

11月には、5色だったボディカラーに新たに20色を加えた「プレミアムカラープロデュース25」をオプション設定。少ない生産台数に対して、カラーバリエーションが増えたことで、まとまった台数を塗装できなくなり、以降は手吹き塗装がほとんどという生産体制になりました。

1999年2月、シリアルナンバーが刻印されたプレートを装備し、ポリッシュ加工のアルミホイール、立体デカール、レッド/ブラックの本革シートなどを備えた最終限定車「175リミテッドエディション」が、175台が限定発売されたのを最後に、国内販売を終了しました。
175台とはいえ、国内販売台数は約1800台と少ないため、約10台に1台は最終限定車ということになりました。

国内で販売が振るわなかったのは、特異なスタイリングだけでなく、固い足回りによるハードな乗り心地や、縮小傾向にあった3ドアのみであったこと、デザイン故の後方視界の悪さなど、要因は様々考えられました。
2000年代以降、国内外問わず、スポーツ志向のクロスオーバーSUVがデビューを飾り、クーペSUV、スポーティSUVなど一大ジャンルを築いていくことになります。そのジャンルを開拓したのは、紛れもなくこのビークロスでした。

 

 

 

 

【諸元】

 

 

いすゞ・ビークロス(UGS25型)

全長×全幅×全高 4130mm×1790mm×1710mm
ホイールベース 2330mm
乗車定員 4名
エンジン 6VD1型 V型6気筒DOHC 3165cc(215ps/5600rpm)
駆動方式 4WD
トランスミッション 4AT
タイヤサイズ 245/70R16