【いすゞ】ワスプ/ベレットエキスプレス(KR10型)

日産・ダットサントラックの独占状態だった小型ボンネットトラック市場に、いすゞが投入したのがワスプで、ベレット同じフロントマスクを持つことが特徴でした。

ライトバンのベレットエキスプレス共々、市場参入を目指した意欲作でしたが、残念ながら販売は伸び悩みました。

 

 

 


いすゞ・ワスプ/ベレットエキスプレス(KR10型)の歴史】

 

 

戦前の1935年に初代10T型が発売された日産・ダットサントラックは、小型ボンネットトラック市場では言わずとしれた定番車種であり、独占状態でした。1957年に発売された4代目220型では、標準ホイールベースの850kg積に加えて、ロングホイールベースの1t積を設定したほか、低床や高床荷台、5人乗りのダブルピックアップやライトバンなども設定すると、その使い勝手の良さやバリエーションの豊富さから好評となり、1960年代には他メーカーからもライバル車が発売されていきました。

1961年4月に日野・ブリスカ(初代GP30型)、8月にマツダ・B1500(BUA61型)、1962年にはダイハツ・ハイライン(F100型)、1963年9月にトヨペット・ライトスタウト(K40型)と、続々とライバル車が投入されました。
これらのモデルは、それまでのトラックのような無骨なデザインから、乗用車風のフロントマスクを持っていたことが共通した特徴。小型セダンを自家用車に持つことなどまだ夢の時代だったことから、平日は商用車として、休日はマイカーとして使えるクルマが歓迎されたのでした。
ワスプも、同時発売された乗用車のベレット(初代PR型)と、ほぼ同じフロントマスクを採用しました。

モノコックボディだったベレットに対し、ワスプは頑丈なラダーフレームを採用。サスペンションは、前輪にトーションバー式、後輪に車軸式とし、構造的にはトラックそのもので、1t積として十分な堅牢さを実現しています。

エンジンはガソリンとディーゼルをそれぞれ1機種ずつラインナップ。
ベレットに搭載された1.5Lエンジンを縮小した、58psの「G130型(直列4気筒OHV・1325cc)」は、翌年にはベレットの廉価グレードにも搭載されました。
ディーゼルエンジンは50psの「C180型(直列4気筒OHVディーゼル・1764cc)」で、ベレットと同一。

 
 
 
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ボディの前半分はベレットと同一基調のもので、ドアやフロントフェンダーに至っては共通部品。リアフェンダーのキャラクターラインも同じ意匠で仕上げられています。
内装では、インパネもベレットと共通でした。

1963年6月に発表され、11月から発売されたワスプは、燃費に優れたディーゼルエンジンなどを武器にした意欲作でしたが、ダットサントラックの牙城を崩すことは敵いませんでした。当時のディーゼルエンジンは振動や騒音、黒煙が多く、敬遠される存在であり、販売は伸び悩みました。

1964年9月に追加されたバンモデルは、ベレットのライトバン仕様ボディを、ワスプのシャシーの載せたもので、「ベレットエキスプレス」を名乗りました。
フロントグリルは、ベレットと基本的には同一のものが付けられ、テールライトも同一意匠のものを採用。エンジンラインナップはワスプと同じ2種類を搭載しました。
2名乗車時には500kg積、5名乗車時には300kg積の最大積載量で、後席はワンタッチで倒すことができました。下開き式のテールゲートは、電動リアウインドウを下げないと開けられず、不評でした。

トラックより繊細な荷物を運ぶライトバンでは、ディーゼルの振動は敬遠され、1965年10月には、エキスプレスのディーゼル車は早々に廃止されました。
一方で、ワスプにはパネルバン仕様車が追加され、車両重量の増加により、ガソリンエンジンのみが搭載されました。

1966年10月にマイナーチェンジを実施し、フロントグリル回りのデザインを変更。エキスプレスは、同年のベレットと同一のものに変更されました。インパネもベレットの変更に合わせて新しくなったほか、トランスミッションはフルシンクロ化されました。
また、600kg積の移動販売車仕様が追加されました。

1967年のうちに、ベレットエキスプレスは生産中止となり、翌年デビューのフローリアンバン(PA20/30型)まで、ライトバンいすゞのラインナップから消滅。

1968年9月に再度マイナーチェンジを受け、ベレットBタイプと同様の、異形角形ヘッドライトに変更となりました。

1971年に生産中止となり、翌年後継車のファスター(KB20/25型)がデビュー。
ベースがフローリアン(PA20/30型)に変更されて一回り大型化し、1972年からは業務提携したゼネラルモーターズに「LUV」としてOEM供給されました。その後、2代目KB40型に4WDモデルのファスターロデオが追加されると、ロデオビッグホーン(初代UBS12/13/17/52/55型)が派生。さらに1988年に独立したロデオ(TF型)をベースに、ミュー(初代UCS17/55/69型)が派生するなど、RVブーム下のいすゞを支えました。

ダットサントラックの強力な販売力は、トヨタですら太刀打ちできず、ましてや販売網で劣るいすゞにとっては、終始厳しい販売成績を強いられました。
ワスプの現存台数は15台程度、ベレットエキスプレスに至ってはわずか2台と言われており、この数字からも、当時の厳しい現実が見て取れる気がします。

 

 

 

 

【諸元】

 

 

いすゞ・ワスプ/ベレットエキスプレス(KR10型)

全長×全幅×全高 4095/4205mm×1525mm×1615mm(ワスプ)
4200mm×1535mm×1875mm(ワスプ移動販売車)
4250mm×1530mm×1900mm(ワスプパネルバン
4260mm×1510mm×1505mm(ベレットエキスプレス)
ホイールベース 2500mm
乗車定員 2/5名
エンジン G130型 直列4気筒OHV 1325cc(58ps/5000rpm)
C180型 直列4気筒OHVディーゼル 1764cc(50ps/4000rpm)
駆動方式 FR
トランスミッション 4MT
タイヤサイズ 5.50-14 6P
6.00-14 6P