【トヨタ】エスティマ(初代XR10/20型)

1990年に登場した「トヨタの天才タマゴ」。ファミリーカーのスタンダードを、4ドアセダンからミニバンに変えた、画期的なクルマでした。

商用バンベースの1BOXワゴンとは一線を画した快適性や大きな室内空間、そして未来を感じさせるスタイリングなどを武器に投入されましたが、当時の日本市場では大きすぎるボディが足かせになってしまいました。

 

 

 


エスティマ(初代XR10/20型)の歴史】

 

 

北米では1980年代、ミニバンブームが起こりました。クライスラーグループのダッジ・キャラバンやプリムス・ボイジャーが火付け役で、シボレー・アストロやフォード・エアロスターなど、様々なモデルが発売されました。
そこにいち早く反応したのがトヨタで、北米でも受け入れられて、さらには日本市場にも投入しようと計画されたのがエスティマでした。

それまでは、商用バンの座席や装備などを乗用仕様に変更した1BOXワゴンが当たり前で、トヨタで言えばハイエースワゴン(3代目H50/60/70型)やマスターエースサーフ/タウンエースワゴン(R20型)、ライトエースワゴン(3代目M30型)といったモデル。
一部例外だったのは、日本のミニバンの先駆とも言われる日産・プレーリー(初代M10型)や三菱・シャリオ(初代D0型)。プレーリーはスタンザFX/オースターJX(2代目T11型)をベースに開発されたモデル、シャリオはトレディア(A210型)をベースに開発されたモデルであり、いずれもファミリークラスのセダンをベースにしていました。

一方でエスティマは、ミニバン専用のシャシーを新開発することを前提に、居住空間の確保や乗用車並みの運動性能を実現しようとしました。通常の1BOXワゴンは、運転席下にエンジンを置き、前輪はエンジンよりも後ろに搭載するフロントエンジンレイアウト。それをエスティマは、75度傾けることで平床化に成功し、前輪は運転席より前に配置することで、世界でも稀だった床下ミッドシップレイアウトが採用されました。

トヨタの北米デザインスタジオ(CALTY)でデザインされたスタイリングは、フロントマスクからAピラー、ルーフ、バックドアまで、弧を描いたようななめらかラインで繋がり、「トヨタの天才タマゴ」のキャッチコピー通りのタマゴ型のフォルムが特徴的でした。後席スライドドアは助手席側のみの4ドア仕様で、シートレイアウトは2-2-3の7人乗り。インパネも曲面を多用した未来的な造形で、新世代のミニバンをアピールしました。

エンジンは、ハイエースワゴン(4代目H100型)に搭載していた2RZ-E型をベースに、エスティマ専用として作られた「2TZ-FE型(直列4気筒DOHC・2438cc)」を搭載。トランスミッションはコラム式の4速ATのみでした。サスペンションは4輪独立懸架とし、商用グレードを持たないミニバンならでは。駆動方式は、ミッドシップ(MR)の他に4WDも用意されました。

 
 
 
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1990年の初めに北米市場で「プレビア」として販売を開始。しかし、北米市場のライバル車はV6エンジンを搭載する中、135psの2.4Lエンジンでは非力で、支持を得ることは出来ませんでした。

日本では5月に「エスティマ」としてデビュー。ところが、大柄なボディサイズと高価すぎる価格設定のために販売は苦戦。当時まだ5ナンバーサイズが主流だった国内市場では、特に1800mmを誇る全幅がネックとなりました。
価格の面では、売れ筋だったタウンエース(2代目R20型)の1990年当時の価格が98.4万円~234.9万円、翌年に発売されて人気車種となる日産・バネットセレナ(初代C23型)が135.7~287.0万円という相場の中で、エスティマは、296.5~335.0万円と非常に高価でした。これは、同時期のマークⅡ(6代目X80型)であれば2.5Lのツインターボモデルや3.0Lのトップグレードが、クラウン(8代目S130型)であれば2.5L車なら買える価格です。

1992年1月、好調だったバネットセレナへの対抗として、全幅と全長を短縮して5ナンバーサイズに収めたエスティマエミーナ/ルシーダを発売。エスティマの開発当初から、国内向けのナローボディ版も計画されていたとされ、バネットセレナの好調さを見て、グレード構成などを増やして発売されました。
エスティマはほとんどモノグレードだったのに対し、エミーナ/ルシーダは当時のワゴン車らしく、廉価グレードから高級グレードまで数多くのグレードが揃えられました。フロントマスクやテールランプ、内装もエスティマとは異なるデザインを採用しています。
搭載されたのは、ガソリン車はエスティマと同様の2TZ-FE型。ディーゼルターボも用意され「3C-T型(直列4気筒SOHCディーゼルターボ・2184cc)」を搭載。ディーゼル車は5ナンバー登録となりますが、ガソリン車は排気量が2.0Lを超えるため3ナンバー登録となりました。
価格設定もバネットセレナと同程度に設定し、従来の1BOX車にはないスタイリッシュさなどが人気となり、バネットセレナに大差をつけてエスティマ勢が逆転することになりました。

1993年2月には、エスティマに廉価グレード「X」を追加。ユーザーから要望が多かった8人乗り仕様で、2列目はベンチシート。リアサスペンションに4リンク式を採用するなど、装備の簡略化を実施して価格を抑えました。

1993年5月、エミーナ/ルシーダに「ジョイフルキャノピー」装着車を設定。標準ルーフよりも全高を120mm高くし、広くて開放感のある室内を実現しました。

1994年8月には、エスティマのエンジンの非力さを改善することが目的で、「2TZ-FZE型(直列4気筒DOHCスーパーチャージャー・2438cc)」を廉価グレードであるX以外に搭載。

ホンダ・オデッセイ(初代RA1-5型)が1994年に発売されて大ヒットしていたため、1995年1月にはエミーナ/ルシーダをマイナーチェンジし、意匠を変更。

1996年8月には、エスティマとエミーナ/ルシーダ共にマイナーチェンジ。
エスティマはグレード構成を見直し、それまでの標準グレードを「G」、Xにスーパーチャージャーを搭載した「V」、廉価グレードの「X」の3グレード体制。
エミーナ/ルシーダは、ヘッドランプを楕円型基調としたデザインに変更したほか、ABSやデュアルエアバッグを全車に標準装備して安全性を向上させました。また、スポイラーやマッドガードなどを備えたスポーティなグレード「アエラス」を新設定しました。

1998年1月、エスティマにもエアロパーツ等を装着した「アエラス」を新設定。また、全てのグレードでスーパーチャージャー付に変更しました。

2000年1月、フルモデルチェンジに伴い販売終了となりました。
先述のオデッセイや、1997年に登場した日産・エルグランド(初代E50型)など、直接的なライバルとなる車種が多く登場し、好調な販売を記録。これらのライバル車は3.0L以上のV6エンジンもラインナップするなどして人気を得ていましたが、エスティマはその特異なレイアウトのせいで大型のエンジンを搭載することが出来ませんでした。
2代目ではFFレイアウトへ変更し、3.0LのV6エンジン搭載車も用意したほか、ハイブリッドモデルも追加するなどして人気を得ることになります。尚、エミーナ/ルシーダは1代限りで終了となり、エスティマに統合されました。

スタイリングからレイアウトまで何もかも斬新だったエスティマ。しかし、ステーションワゴンSUVが人気の中、少し時代を先取りしすぎ、3ナンバーサイズの大型ミニバンはまだ受け入れられず、販売成績はあまり伸びませんでした。
それから10年も経てば時代も変わり、いつしか3ナンバーミニバンが大勢の時代に突入。ライバル各車と共にエスティマもミニバンブームの一翼を担うことになります。先見の明があったのは間違いありませんが、そのタイミングも重要なものです。

 

 

 

【諸元】

 

 

 

トヨタエスティマ(初代XR10/20型)

全長×全幅×全高 4750mm×1800mm×1780/1790mm(標準ルーフ)
4750mm×1800mm×1810/1820mm(ツインムーンルーフ)
4750mm×1800mm×1865/1875mm(アエラス)
ホイールベース 2860mm
乗車定員 7/8名
エンジン 2TZ-FE型 直列4気筒DOHC 2438cc(135ps/5000rpm)
2TZ-FZE型 直列4気筒DOHCスーパーチャージャー 2438cc(160ps/5000rpm)
駆動方式 MR/4WD
トランスミッション 4AT
タイヤサイズ 215/65R15

 

トヨタエスティマエミーナ/ルシーダ(初代XR10/20型)

全長×全幅×全高 4690mm×1690mm×1780/1790mm(標準ルーフ)
4690mm×1690mm×1810/1820mm(ツインムーンルーフ)
4690mm×1690mm×1875mm(アエラス)
4690mm×1690mm×1910mm(ジョイフルキャノピー)
ホイールベース 2860mm
乗車定員 7/8名
エンジン 3C-T型 直列4気筒SOHCディーゼルターボ 2184cc(100ps/4200rpm)(~1996.8)
3C-TE型 直列4気筒SOHCディーゼルターボ 2184cc(105ps/4200rpm)(1996.8~)
2TZ-FE型 直列4気筒DOHC 2438cc(135ps/5000rpm)
駆動方式 MR/4WD
トランスミッション 4AT/5MT
タイヤサイズ 185SR14
205/70R14
215/65R15