【トヨタ】iQ(AJ10型)

地球温暖化の問題により、CO2排出量の削減を目的に、エコカーの流れが活発化した2000年代。トヨタなりの1つの答えが、クルマ自体をダウンサイジングすることで、それを具体化したのがiQでした。

全長3mに満たないマイクロコンパクトカーは注目を集めましたが、特殊なジャンルのクルマであったことから、販売は低迷しました。

 

 

 


トヨタ・iQ(AJ10型)の歴史】

 

 

地球温暖化が問題視されるようになった現代。自動車分野における対策として、大気汚染物質の排出を少なくすることや、燃費を向上させることが目標とされ、いわゆる「エコカー」の開発が活発化しました。

1997年に量産市販化が実現したトヨタ・プリウス(初代XW10型)登場は、世界的にも注目され、以降ハイブリッドカーが次々に開発されていきました。
電気自動車や、天然ガス(CNG)自動車、水素自動車、燃料電池自動車など、新たなエネルギーを動力源とするクルマの開発も進み、現在では実用段階にあるものも多く存在しています。

もう1つのエコカーの流れとして、クルマのダウンサイジングが進みました。かつて大きなセダンや1BOX車に乗っていたユーザーの、コンパクトハッチバックや軽ハイトワゴンへの乗り換えが進んだのです。
トヨタ・ヴィッツ(初代XP10型)に代表されるように、世界戦略化と共に、優れたパッケージングのコンパクトカーが人気モデルとなる中で、もう一つのダウンサイジングの形としてトヨタが提案したのが、大人3人と子供1人が乗車できる「3+1シーター」というものでした。

このコンセプトを実現したコンセプトカー「iQコンセプト」を、2007年のフランクフルトモーターショーと東京モーターショーに出展。翌年の2008年3月のジュネーブモーターショーでは量産仕様が、10月のパリサロンでは市販モデルが正式に発表され、11月に市販されました。

同時期のヴィッツ(2代目XP90型)の2460mmや、欧州向けのAセグメントカーであるアイゴ(初代AB10型)の2340mmよりも遥かに短い、2000mmのホイールベースを採用。
一般的にエンジン後方に置かれるデフは、反転させてエンジン前方に配置され、これによって前輪を極限まで前方に置くことに成功。ステアリングギアボックスを高い位置にレイアウトすることで、エンジンルームのコンパクト化も実現しました。
こうした結果、オーバーハングがフロントが530mm、リアが430mmと驚異的に短くすることができ、短い全長ながら快適な居住空間を実現しています。

エンジンは「1KR-FE型(直列3気筒DOHC・996cc)」で、トヨタのリッターカーで実績のあるものを搭載。欧州向けには、1.4Lのディーゼルエンジンも用意されました。
トランスミッションは、専用にチューニングされたCVTを採用。

ボディサイズは全長2985mm×全幅1680mm×全高1500mmで、全長は軽自動車より400mmも短い一方、全幅は一般的な5ナンバーサイズであり、縦横比のバランスが一般的なクルマとはまるで異なっています。

室内は前席がセパレートシート、後席はベンチシートとし、助手席を前にセットすると、大人3人+子供1人の乗車が可能。
このレイアウトを実現するため、通常は助手席側のインパネ内部に置かれるエアコンユニットは、センタークラスター内に収納されており、助手席のスライド量を確保しています。
限られた室内空間を有効活用するためにシートは薄型の新素材タイプを採用。僅かながらラゲッジスペースも確保されており、後席を倒せばさらに拡大することが出来ました。

装備の違いによる「100X」「100G」「100Gレザーパッケージ」の3グレードが展開され、合計9個にも及ぶエアバッグやABS、姿勢制御装置のS-VSCなどの安全装備を全車に標準装備。
「コンパクトではあるが、我慢はない」という当初の開発目標が表すとおり、我慢して乗る小さいクルマではなく、小さいことを付加価値として考えるというもので、上級車並みの装備が備わっていました。

2009年8月には、欧州向けより遅れたものの、1.3L車を追加。ダイハツと共同開発した「1NR-FE型(直列4気筒DOHC・1329cc)」が搭載され、100psを発揮しました。
同時に2種類の特別仕様車を設定。「+(プラス)」は、100Gと130Gをベースに、内装の加飾やスーパークロームメタリック塗装のアルミホイールなどを装備したモデル。
100Xに設定された「2Seater」は、その名のとおり後席を撤去してラゲッジスペースに拡大したモデルで、シート撤去に伴う重量バランス補正のために、サスペンション設定なども変更されています。

 
 
 
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2010年8月、スポーティドレスアップパッケージ「→(ゴー)」を設定。100G、130G、130Gレザーパッケージに追加されたもので、専用フロントエアロバンパーとフォグランプ、リアデフューザーを装備。グレー&ブラックの内装色を設定し、赤ステッチ入りステアリングや、高輝度シルバー加飾インパネなどを採用してスタイリッシュに仕上げられました。

2010年11月には、海外向けに設定されていた6速MT車を国内でも発売。1.3L車のみで、「130G MT→(ゴー)」「130G MT→(ゴー) レザーパッケージ」が設定されました。6速MT車にはアイドリングストップシステムも装備。

2011年1月、イギリスの高級車メーカーであるアストンマーティンが、iQをベースにした「シグネット」を発売。将来的に小型車ラインナップが必要と判断したアストンマーティンが、優れたシャシー性能や安全性、サイズやスタイリングなどがコンセプトに合致したiQをベースに選び、2009年にトヨタがこれに対してOEM供給を決定。
アストンマーティンらしいフロントマスクや、美しいラインのフェンダーなどを備え、ダッシュボードやシート、内張りなどの内装には本革が使われました。
製造には、輸送されたiQを一旦分解し、職人が手作業によりシグネットに変えていく方法が取られ、塗装や研磨は人の手で行われ、完成には多くの時間を要した上、販売価格は500万円近くに及びました。シグネットは、2013年12月で販売を終了。

2012年5月、1.3LのCVT車に、マニュアルシフト感覚を楽しめる7速シーケンシャルシフトを採用。グレード体系も見直され、「100X 2Seater」「100X」「100G」「130G Xパッケージ」「130G MT」「130G」「130G MTレザーパッケージ」「130Gレザーパッケージ」に整理。1.3L車に新たに設定されたXパッケージは、装備内容を厳選した低価格グレード。

2014年5月には、ネッツ店再編10周年を記念した特別仕様車グランブルー」を発売。130GレザーパッケージのCVT車と6速MT車どちらにも設定され、専用のボディカラーは、ネッツ店のチャネルカラーであるブルーを基調とした特別色3色と別の色を組み合わせたツートン色。インテリアでも、ピラーからルーフにかけての内張りはブルーとし、本革巻きステアリングやシフトノブを装備し、前席には青色のステッチを施しました。

2016年4月、生産台数の低迷により車種整理の対象となり、販売を終了。ヴィッツ(3代目XP130型)や、同月発売されたパッソ(3代目M700/710型)に統合されました。

 
 
 
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近いコンセプトのクルマとして、ダイムラー傘下のスマートが製造するスマート・フォーツーがありましたが、RRレイアウトを採る2シーターモデルであり、メッサーシュミットBMWイセッタなどの、かつての「マイクロカー」「バブルカー」の現代版といったものでした。
開発コンセプトが異なっていたiQは、居住性の高いパッケージングや、質感の高さなどによって、新たなコンパクトカーの形を創造した画期的なモデルでしたが、その独特な個性から販売は低迷しました。
「iQは時代を先取りし過ぎた」と言える時代は果たして来るのでしょうか。

 

 

 

 

【諸元】

 

 

トヨタ・iQ(AJ10型)

全長×全幅×全高 2985mm×1680mm×1500mm
3000mm×1680mm×1500mm(→(ゴー))
ホイールベース 2000mm
乗車定員 2/4名
エンジン 1KR-FE型 直列3気筒DOHC 996cc(68ps/6000rpm)
1NR-FE型 直列4気筒DOHC 1329cc(94ps/6000rpm)
駆動方式 FF
トランスミッション CVT/6MT
タイヤサイズ 175/65R15
175/60R16