【スバル】1000(A12型)

トヨタ・カローラや日産・サニーと同じ大衆車クラスにスバルが投入した1000は、安定した走りと豊かな室内空間を追及した、スバルらしいこだわりの1台。

前輪駆動と水平対向エンジンという、現代にも通じるスバルのアイデンティティを生み出しました。

 

 

 


【スバル・1000(A12型)の歴史】

 

 

スバル・360(K111/212型)で成功を収めていたスバルは、小型車市場への進出を狙いました。1960年頃から1.5Lクラスの新型車開発を進め、1963年には試作車まで完成したものの、ダットサン・ブルーバード(2代目410型)やトヨペット・コロナ(2代目T20型)を前に、当時のスバルの規模ではこれらに太刀打ちできないと判断し、市販化までは至りませんでした。
その後、800ccクラスの新たな小型車計画をスタートさせ、これが計画段階で1.0Lクラスとなって市販化されたのがスバル・1000。

静粛性や低振動さなどの快適性や、広い室内空間を実現するため、水平対向エンジンを縦置きした、FFレイアウトというパッケージングを決定。
スバル・360と同じトーションバーをサスペンションに採用することにより、スペース効率とコストダウンを両立させました。
さらに、FFの課題とされたトラクションの確保には、スペアタイヤや工具類をエンジンルームに収納することで、フロントに過重を集中させました。

東洋ベアリング社が開発して実用化した「ダブル・オフセット・ジョイント」を、ドライブシャフトの等速ジョイントに導入し、従来のFF車にはない、優れた乗り心地や耐久性を実現しました。

水平対向エンジンが採用されたのは、広い室内空間の確保と、FF方式の採用のために、エンジンの全長を短くする必要が生じたことによるもの。
「EA52型(水平対向4気筒OHV・977cc)」は、軽量化のためにシリンダーブロックとヘッドはアルミ合金製とされ、非常に軽量なエンジンを実現しました。
また、デュアルラジエターという冷却方式を採用。メインとサブの2つのラジエターを持ち、小型電動ファンによって冷却を行うもので、クランクシャフト先端に冷却ファンを持つ一般的な方式の難点だった、パワーロスがないことが特徴でした。
トランスミッションにはコラム式の4速MTを採用。

全長3900/3930mm×全幅1480mm×全高1390mmのボディサイズは、同年に登場したトヨタ・カローラ(初代E10型)やダットサン・サニー(初代B10型)と、ほぼ同等サイズながら、ホイールベースは約120mmも長い2400mmを採用。
デザインは社内によるもので、セミファストバックスタイルで、当初は4ドアセダンのみでした。

様々な工夫によって生み出された広い室内空間は、当時の1.5~2.0Lクラスに匹敵する開放感の高いものを実現していました。
スペアタイヤ等をエンジンルームに配置した恩恵はトランクルームにも表れており、広大な容量を確保することが出来ました。
さらに、上級グレードにはフルリクライニングシートも採用していました。

1966年5月に発表会が開催され、東名阪での販売を開始した後、7月までの間に全国展開が完了。「スタンダード」「デラックス」「スーバーデラックス」が設定されました。

1967年2月に2ドアセダンが追加されました。4ドアセダンと同じボディサイズで、ドア幅は1053mmを誇り、同クラスでは最大でした。

1967年9月には、「スタンダード」「デラックス」の2種類の4ドアバンを追加。
FFレイアウトの恩恵はここでも感じられ、荷室の広さや荷台の低さが売りで、リアドアは上下2分割開閉式が採用されました。全長3880mm×全幅1480mm×全高1415mmのサイズで、エンジンはセダンと同様。

1967年11月には、2ドアセダンにスポーティグレードの「スポーツセダン」を追加しました。エンジンはEA52型をベースに圧縮比を上げ、ソレックスツインキャブを装備し、専用部品を多く使用したチューニング仕様に仕上げた「EA53型(水平対向4気筒OHV・977cc)」が搭載され、最高出力は67psを発揮。
フロントグリルやテールランプにも専用のものが装着され、ラジアルタイヤも標準装備、3連メーターやフロントバケットシート等でスポーティさを演出しました。
ただし、専用チューニングはかなりピーキーな特性を持つもので、4速ギアは2000回転以下で使用しないことが説明書に明記され、常用回転数は3500~6000回転という高回転型。周りのクルマよりも低いギアでの走行を強いられ、かなり本格的な生粋のスポーツモデルだったのです。

1968年8月には、2ドアバンの発売や、セダンのデラックスにフロアシフト車の設定などを実施し、11月にはスーパーデラックスにもフロアシフト車が追加されました。

1969年3月、排気量を1.1Lに拡大したff-1シリーズに移行し、スバル・1000は販売終了。激戦の小型車市場における、モアパワーの要求に応える形となりました。1970年にはさらに1.3Lに排気量を拡大し、1971年には後継のレオーネ(初代A20/60型)が発売されました。

水平対向エンジンとFFレイアウトの採用は、ライバル他車とは大きく異なるメカニズムでしたが、その合理的なパッケージングは、スバルのアイデンティティとして長年に渡り愛されることになり、現在では「スバリスト」なる多くの愛好家まで生むことになりました。
当初は販売台数に苦しんだものの、1969年には小型車市場でカローラとサニーに次ぐ月販を記録するまでに成長するなど、独創性と合理性がユーザーに受け入れられたことが、販売台数にも現れています。

 

 

 

 

【諸元】

 

 

 

スバル・1000(A12型)

全長×全幅×全高 3900/3930mm×1480mm×1390mm
3900mm×1480mm×1375mm(スポーツセダン)
3880mm×1480mm×1415mm(バン)
ホイールベース 2400mm
2420mm(バン)
乗車定員 2/5名
エンジン EA52型 水平対向4気筒OHV 977cc(55ps/6000rpm)
EA53型 水平対向4気筒OHV 977cc(67ps/6600rpm)(スポーツセダン)
駆動方式 FF
トランスミッション 4MT
タイヤサイズ 5.50-13 4P
6.15-13 4P
6.15-13 6P(バン)
145SR13(スポーツセダン)