【マツダ】クロノス(GE型)

1991年、マツダのミドルセダンであるカペラの後継モデルとして登場したクロノスは、3ナンバーサイズのワイドボディを採用し、流麗で端正なルックスが特徴の意欲作。

しかし、いわゆる「クロノスの悲劇」を招き、マツダの経営を揺るがすことになってしまったのです。

 

 

 


マツダ・クロノス(GE型)の歴史】

 

 

1980年代までのマツダの乗用車ラインナップは、小型車のファミリア、ミドルクラスのカペラ、そして上級車のルーチェという3本柱でした。FF化したファミリア(5代目BD型)の大ヒット以降、好調な売り上げを見せ、トヨタ・日産に継ぐ国内第3位のメーカーにまで成長していました。

トップ2に追いつきたいマツダは、同じような多チャンネル化に踏み切り、販売網や車種ラインナップの増強を押し進めることになりました。従来のマツダ店、マツダオート店(後のアンフィニ店)、オートラマ店に加えて、新たにユーノス店とオートザム店の2つを追加し、5チャンネル体制を敷き、販売店の数も2倍に増やした上で、新工場も建設。まだバブル景気下にあった1990年には過去最高の生産台数・販売台数を記録するなど、一時は十分な成果を上げることに成功しました。

この頃、3ナンバー車の税制改正もあり、軒並み大型化や上級化していたミドルセダン市場。マツダも、既存車種の見直しを実施する中で、カペラの上級化に踏み切りました。5ナンバー枠にとらわれず、3ナンバー化が決まると、従来のカペラのイメージを刷新するため、カペラの名は使わずに「クロノス」と車名を変更することになりました。

新たに開発したGEプラットフォームを使用し、駆動方式はFF。
エンジンも新開発され、140psの「K8-ZE型(V型6気筒DOHC・1844cc)」と、160psの「KF-ZE型(V型6気筒DOHC・1995cc)」の2種類が用意され、K8-ZE型は、当時は世界最小のV6エンジンでした。
トランスミッションは5速MTに加え、自社で新開発した電子制御式4速ATをラインナップ。

3ナンバー化したボディサイズは全長4695mm×全幅1770mm×全高1400mm。従来のライバル車であるトヨタ・コロナ(9代目T170型)や日産・ブルーバード(8代目U12型)と比較すると、全幅のみならず、全長も約200mmも大きく設定されており、トヨタ・マークⅡ/チェイサー/クレスタ(X80型)や日産・ローレル(6代目C33型)、セフィーロ(初代A31型)に匹敵するほどの全長となりました。

当時のマツダ車の特徴である、曲線を多用した滑らかなボディラインが特徴的でした。
3ナンバーサイズとなった全幅の拡幅は、北米での側面衝突安全基準への対応のための、ドア内部に装備されたインパクトビームに費やされており、3ナンバー化の恩恵はそれほど受けられていませんでした。
さらに、フロントオーバーハングが長いことや、絞り込んだキャビンのデザインなど、当時の流行スタイルを捨てきれなかったことなどが、3ナンバー車に値するほどの室内空間が得られなかった要因でした。

1.8L車が2グレード、2.0L車が3グレード用意され、153.3万円~233.5万円の価格設定で、1991年10月に発売されました。

前述したように、マツダは多チャンネル化を推し進めていたことで、4ドアセダンであるクロノスを中心とした、多くの姉妹車ラインナップが展開されました。
クロノスと同じ1991年10月には、オートラマ店向けの4ドアセダンであるテルスターセダン(GE型)と5ドアハッチバックセダンであるテルスターTX5(GE型)が、1991年11月にはアンフィニ店向けの5ドアハッチバックセダンであるアンフィニ・MS-6(GE型)が、1992年1月にはマツダ店向けの2ドアクーペであるMX-6(GE型)が、1992年2月にはユーノス店向けの4ドアセダンであるユーノス・500(CA型)が、1992年3月にはアンフィニ店向けの4ドアハードトップであるアンフィニ・MS-8(MB型)が、1992年5月にはオートザム店向けの4ドアセダンであるオートザム・クレフ(GE型)が、1992年9月にはオートラマ店向けの2ドアクーペであるフォード・プローブ(1ZVTB型)がデビューしました。
1年の間にこれだけのモデルが続々とデビューし続けた結果、当然のことながら、圧倒的な知名度不足が生じました。「よくわからない」から他メーカー車に流れたユーザーも多くいたはずです。これらの姉妹車を含めても、月販1万台未満という深刻な事態を招いてしまい、マツダの経営は一気に傾きました。これが俗に「クロノスの悲劇」と言われているのです。

1993年6月、ディーゼルエンジン搭載車や4WD車、V6 2.5Lエンジン搭載車を追加しました。
ディーゼルエンジンは、カペラにも搭載されていた「RF型(直列4気筒SOHCスーパーチャージャー・1998cc)」で、PWS(プレッシャーウェーブ・スーパーチャージャー)によって最高出力82ps。
4WD車には、ビスカスカップリング式フルタイム4WDが採用され、125psの「FS-DE型(直列4気筒DOHC・1991cc)」を搭載しました。
さらに、最上級モデルとして追加された「25グランツーリスモ-X」には、200psを発揮する「KL-ZE型(V型6気筒DOHC・2496cc)」を搭載しました。

1994年8月には、「クロノスの悲劇」による窮地から脱するため、6代目CG型としてカペラが復活。5ナンバーサイズに戻されたことや、車両価格を抑えられたことで、従来のカペラユーザーも戻り、それなりの成績を収めることが出来ました。

一方でクロノスも販売は継続しており、1994年10月にマイナーチェンジを実施。フロントグリルのデザインを変更し、ABSを全グレードに標準装備しました。また、1.8L車は廃止されました。

1995年12月、ついに国内販売を終了。数々の姉妹車も、この頃に概ね販売を終了していき、クロノス系の歴史は幕を下ろしました。
その後カペラは、1997年8月に7代目GF/GW型へフルモデルチェンジし、2002年にはアテンザ(初代GG/GY型)へ後を継いでいます。

マツダは「クロノスの悲劇」の後、経営危機の中で5チャンネル体制を終わらせ、フォード傘下で経営再建を図りました。ブランド戦略「Zoom-Zoom」や、一連の新技術の総称「スカイアクティブテクノロジー」など、ブランディング戦略が功を奏し、経営状態は回復。2008年にはフォードとの資本提携も終了しました。その後も「魂動」をテーマにしたデザイン戦略などで人気を集めており、1990年代にクロノスで経験した深刻な経営危機がその原動力となっているのでしょう。

 

 

 

【諸元】

 

 

マツダ・クロノス(GE型)

全長×全幅×全高 4695mm×1770mm×1400/1420mm
ホイールベース 2610mm
乗車定員 5名
エンジン FS-DE型 直列4気筒DOHC 1991cc(125ps/5500rpm)(4WD車)
RF型 直列4気筒SOHCディーゼル スーパーチャージャー 1998cc(82ps/4000rpm)
K8-ZE型 V型6気筒DOHC 1844cc(140ps/7000rpm)
KF-ZE型 V型6気筒DOHC 1995cc(160ps/6500rpm)
KL-ZE型 V型6気筒DOHC 2496cc(200ps/6500rpm)
駆動方式 FF/4WD
トランスミッション 4AT/5MT
タイヤサイズ 185/70R14
195/65R14
205/55R15