【ホンダ】シティ(初代AA/VF型)

ホンダが「トールボーイ」と称したシティのボディスタイルは、合理的かつ実用的であるものの、当時としては極めてユニークなものであり、賛否両論。

後に追加されたターボやカブリオレなどのスポーティモデルも特徴の1つとなりました。

 

 

 


【ホンダ・シティ(初代AA/VF型)の歴史】

 

 

1972年の発売以降、ホンダの主力車種は小型車のシビック。初代SB/SG/SE/VG型は世界中で好調な販売を見せた大ヒット作となりましたが、1979年発売の2代目SL/SR/SS/ST/WD/VC型では、大型化したボディサイズにより、初代に比べて販売は不振となっていました。

一方、さらにコンパクトなハッチバック車が続々と出始め、1977年発売のダイハツシャレード(初代G10型)は3.5m級の全長に1.0Lエンジンを搭載。1978年にはダウンサウジングしたトヨタスターレット(2代目P60型)は、3.7m級の全長に1.3Lエンジンを搭載して対抗しました。

ホンダはこのクラスに割って入るべく、全てを新設計としたブランニューモデルを開発。一般的だったワイド&ローのスタイルは全て否定するかのようなボディスタイルや、豪華装備や最新技術競争に対するアンチテーゼとも言えるシンプルさなど、ホンダらしいクルマ作りで登場したのがシティでした。

シビックよりも短い2220mmのホイールベースを持つシャシーに、前後ともマクファーソンストラット式の四輪独立懸架を採用。
新開発のエンジンは「ER型(直列4気筒SOHC・1231cc)」で、ロングストローク型とすることでトルクを重視した実用的なものとし、燃焼効率の高くするため、ホンダ独自技術の「コンバックス(高密度速炎燃焼原理)」システムを搭載しました。全てキャブレター仕様でしたが、グレードにより61ps、63ps、67psの3種類が用意されました。
トランスミッションは4速MTと5速MT、さらにホンダマチックと呼ぶ3速ATをラインナップ。

特徴的なスタイルを持つボディは、全長3380mm×全幅1570mm×全高1470mm。背の低いスタイルが好まれた時代に、シャレードスターレットより約100mm高いスタイルを持った上に、全長は現代の軽自動車並みに短いもので、ホンダはこれを「トールボーイ」と名付けました。これは、非常にコンパクトなボディサイズの中で、十分な実用性を持たせた結果でした。
スタイリングに対する評価は様々で、合理的なパッケージングや運転のしやすさが評価された一方、見慣れないスタイルに対するカッコ悪さを感じる層も少なからず存在しました。

内装も非常にシンプルなもので、直線を基調として使い勝手を考慮したもの。多数の収納を備えていた点も、実用的であり嬉しいポイントでした。
高い天井高によってヘッドクリアランスは十分あり、さらにFFの恩恵を受けて足元も広く、ボディサイズからは想像できないほど室内空間には余裕がありました。

1981年11月に発売され、標準グレードの「E」、スポーティグレードの「R」のほか、4ナンバー登録となる商用車の「シティプロ」も同時発売され、プロには2人乗りと5人乗りの2種類がラインナップされていました。
ユニークなオプションの1つとして、ラゲッジスペースにぴったり収めることができる、折り畳み式ミニバイクの「モトコンポ」があり、シティならではの斬新なものでした。

1982年8月、低燃費仕様の「E1」を追加。5速MTのギア比見直し等によって、クラストップとなる21.0km/h(10モード)の低燃費を実現しました。

1982年9月には、待望の「ターボ」を追加しました。「ER型(直列4気筒SOHCターボ・1231cc)」はインジェクション仕様で、100psを発揮。
専用スポーツサスペンションや扁平タイヤを装備し、足回りも強化しており、車両重量の軽さも手伝い、2.0L車に匹敵する速さを備えました。この手のクラスのターボ車には付きものの、じゃじゃ馬的な性格も醍醐味の一つ。

1982年11月、「マンハッタンルーフ」と称するハイルーフ車を追加。標準ルーフと電動サンルーフ仕様の2種類を準備し、後部座席には2分割リクライニング機構を備えました。

1983年10月には、新たなターボモデルとして「ターボⅡ」を発売。インタークーラーを追加し、最高出力は110psに達しました。大型のブリスターフェンダーを採用し、トレッドを拡大、リアフェンダーにはダクトを設けるなど、外観上もスポーティでダイナミックなもの。

1984年4月、マンハッタンルーフにHi-Fiサウンドシステムを装備した、「マンハッタンサウンド仕様」を設定。

そして1984年7月、オープン仕様の「カブリオレ」を追加しました。ターボⅡのボディをベースに、ソフトトップを装着した4シーターオープンで、オープン部分の開発はイタリアのピニンファリーナによるもの。ソフトトップは手動式で、オープン時でも剛性確保のためロールバーが残るものでしたが、そのスタイルがシティカブリオレの個性を引き立てていました。
ボディカラーの多さも特徴的で、当時としては多い12色がラインナップされました。

1985年3月には、アルミ製のコンロッドを量産車では世界で初めて採用し、24.0km/h(10モード)を実現した「EⅢ」を追加しました。

1985年4月、副変速機付き4速MTの「ハイパーシフト」車を追加しました。副変速機は2,3,4速に備わり、アクセルワークによって自動選択される仕組みで、シフト操作は4速で、実質7速の変速が出来るものでした。運転席のスイッチによって、高速側4速のみでの走行を選ぶことも出来ました。

1986年10月、フルモデルチェンジにより販売終了。2代目GA1/2型はコンセプトを大きく変更し、ワイド&ロースタイルに変貌しました。この方向転換が国内での販売不調を招き、1995年には販売を終了し、翌年に後継車種のロゴ(GA3/5型)を発売。さらに2001年にはフィット(初代GD1-4型)に後を継ぎ、現代に至っています。

1990年代後半頃を境に、国内のコンパクトハッチバックの全高は、いつの間にかシティの1470mmを超え、現代では1500mm以上が主流の時代となりました。軽自動車市場でも1990年代以降は全高の高いモデルが主流になったことなど、全高で室内空間を稼ぐ方法は、いつしか一般化していきました。
1981年にこれを実現していたシティがいかに先進的だったかというのは言うまでもありません。

 

 

 

 

【諸元】

 

 

 

ホンダ・シティ(初代AA/VF型)

全長×全幅×全高 3380mm×1570mm×1460/1470mm
3380mm×1570mm×1570mm(ハイルーフ車)
3420mm×1625mm×1470mm(ターボⅡ/カブリオレ
ホイールベース 2220mm
乗車定員 2/5名
エンジン ER型 直列4気筒SOHC 1231cc(61ps/5000rpm)(プロ)
ER型 直列4気筒SOHC 1231cc(63ps/5000rpm)
ER型 直列4気筒SOHC 1231cc(67ps/5500rpm)
ER型 直列4気筒SOHC ターボ 1231cc(100ps/5500rpm)(ターボ)
ER型 直列4気筒SOHC ICターボ 1231cc(110ps/5500rpm)(ターボⅡ)
駆動方式 FF
トランスミッション 3AT/4MT/5MT
タイヤサイズ 145R12 6P
145SR12
165/70HR12
175/60R13
185/60R13