【三菱】デボネア(初代A30型)

三菱が1964年に発売したフラッグシップセダンのデボネア。大きくて豪華に見せたその個性的なデザインは個人ユーザーには敬遠され、三菱グループのショーファードリヴン需要に終始しました。

常に芳しくない販売状況を表すかのように、1986年まで約22年に渡って生産された長寿モデルとなりました。

 

 

 


【三菱・デボネア(初代A30型)の歴史】

 

 

1960年、三菱・500(A10/11型)で小型乗用車市場に参入した三菱(当時:新三菱重工業)は、1962年にコルト600(A13型)、1963年にコルト1000(A20型)と、新型車を立て続けに発表。フルラインナップ化を進める三菱にとって、次のターゲットとなったのは、トヨペット・クラウン(2代目S40型)、日産・セドリック(初代30型)、プリンス・グロリア(2代目S40型)、いすゞ・ベレル(PS10/20型)などがひしめいていた2.0L級の高級セダン市場。

FRレイアウトにモノコックボディ、前輪はダブルウィッシュボーン式の独立懸架、後輪はリーフリジッドの車軸式と、手堅い設計。
エンジンは「KE64型(直列6気筒OHV・1991cc)」で、当然ながら新開発され、2バレルキャブを2連装したツインキャブに、排気系にはデュアルエグゾーストを採用するなど、パワフルなエンジンを実現しました。出力はクラストップレベルの105ps。
トランスミッションは4速コラムMT(オーバートップ付3速)が組み合わせられました。

スタイリングを担ったのは元GMのデザイナーであるハンス・S・ブレッツナーで、角張ったボディラインに、ボンネットやトランクの端を立てたアメリカ車風のスタイル、大きなグリルや押し出し感の強いフロントマスクなどによって、5ナンバー枠に収めながら、豪華で大きく見せることに成功しています。ボディサイズは全長4670mm×全幅1690mm×全高1465mmで、ほぼ5ナンバー枠フルサイズ。

1964年7月、125万円のモノグレードでデビュー。当時のクラウン・デラックスが105万円だったことを考えれば、割高感は否めませんでした。
当初からオーナードライバー向けはあまり考慮されておらず、もっぱらショーファードリヴン向け。4気筒モデルをラインナップしなかったことからタクシー需要も見込んでおらず、販売競争からは早々に離脱する形となってしまい、この頃から既に、三菱グループの重役向けというイメージが付きまとうことになりました。

1965年5月には、フロント電動セパレートシートや、パワーウィンドウ、パワーステアリング、さらにボルグワーナー製の3速ATを装備した「パワー仕様」を追加。ただでさえ割高感のあった中、さらなる高級仕様を発売して、他車との差別化を図りました。

1969年4月の仕様変更では、フロントにディスクブレーキを標準装備し、ホイールを14インチに大型化。また、リアフェンダー部の砲弾型フィニッシャーが廃止されました。

1970年9月にマイナーチェンジが行われ、「デボネア・エグゼクティブ」を名乗りました。搭載エンジンは「6G34型(直列6気筒SOHC・1994cc)」に変更され、130psにパワーアップ。ギャラン用4気筒エンジンを6気筒化した設計で、静粛性に優れていました。

1973年10月、大幅なマイナーチェンジを実施。三角窓は廃止され、L字型が特徴的だったテールランプは廃止されて一直線型となり、フロントマスク両端の突出した部分を巻くように設置されていたウインカーも廃止され、バンパー埋め込み型とサイドマーカーの分離式となりました。

1976年6月にもマイナーチェンジが実施され、「デボネア・エグゼクティブSE」となりました。コスト削減と排ガス規制適合のため、6気筒エンジンの生産をやめることとなり、ギャランなどで採用されていた4気筒エンジンを限界まで排気量拡大した、120psの「G54B型(直列4気筒SOHC・2555cc)」に変更。これにより3ナンバー車となりました。
また、ラジアルタイヤや電動リモコン式フェンダーミラーを標準装備し、MT車は廃止されました。

1979年6月には、シートの形状が変更され、同時にジャガード地からベロア地に変更。後席からもコントロールできる電子チューナーラジオを採用しました。

その後、1986年8月のフルモデルチェンジまで約22年間生産が続けられました。2代目S10型は「デボネアV」を名乗り、V6エンジンを搭載するFF高級セダンとして再スタートしましたが、フォーマル向けのセダンとパーソナル向けのハードトップの2種類を用意するライバル車が多い中で、デボネアVはセダンボディしか用意出来なかったことや、そもそも「デボネア」の名前が持つ固定イメージを払拭することは難しく、販売面では変わらず苦戦を強いられることになりました。

 
 
 
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日産・サニートラック(2代目B120型)やトヨタ・パブリカピックアップ(2代目P30型)、マツダ・ポーターキャブ(KB/PC型)など、モデルチェンジせずに長年生産された商用車はあれど、乗用車に至ってはトヨタ・センチュリー(初代G20/30/40型)と、このデボネアくらい。センチュリーは、大型化や高級化などのアップデートを度々行っている中、デボネアのあまりに変わらない姿は稀有な存在となり、通称「走るシーラカンス」と呼ばれました。
しかし近年では、その1960年代のレトロなデザインながら高年式で程度のいい個体が存在することから、旧車のカスタムベースとしての人気が高まっている一面もあり、いつどこで人気が再燃するかというのは、読めないものです。

 

 

 

【諸元】

 

 

 

三菱・デボネア(初代A30型)

全長×全幅×全高 4670mm×1690mm×1465mm
ホイールベース 2690mm
乗車定員 6名
エンジン KE64型 直列6気筒OHV 1991cc(105ps/5000rpm)(~1970.9)
6G34型 直列6気筒SOHC 1994cc(130ps/6000rpm)(1970.9~1976.6)
G54B型 直列4気筒SOHC 2555cc(120ps/5000rpm)(1976.6~)
駆動方式 FR
トランスミッション 3AT/4MT
タイヤサイズ 7.00-13 4P