【トヨタ】セルシオ(初代XF10型)

バブル絶頂期の1980年代後半、新たな高級車としてデビューしたセルシオ。北米市場では「レクサス・LS400」として販売され、日本初の世界で通用するラグジュアリーセダンでした。

世界から注目を集めたセルシオにより、大衆車のイメージが強かったトヨタは、高級車メーカーとしても名を馳せるようになったのです。

 

 

 


セルシオ(初代XF10型)の歴史】

 

 

1980年代までの北米市場では、いわゆる「アメ車」のイメージ通りの、ボディサイズが大きく、威厳のあるデザインを持つフルサイズセダンが高級車の在るべき姿とされ、キャデラック・フリートウッド、リンカーン・タウンカー、リンカーン・コンチネンタルなどがその象徴。
しかし次第に、これらを古臭く感じるユーザーが若年層を中心に一定数存在するようになり、メルセデスベンツBMWに代表される高級ドイツ車に流れるユーザーも増加していました。ここに目を付けたトヨタは、ドイツ車のような品質と安全性に優れ、さらに日本車の得意とする信頼性の高さやリーズナブルさを両立させようとしました。

新たなブランドとして「レクサス」が立ち上がり、1989年に北米で展開を開始。当初販売されたのが、プレミアムセダンの「LS」と、ミドルセダンの「ES」でした。
9月に発売されたLSは、その完成度の高さから、北米市場で大人気となり、日本車が入る余地はないとされていた北米の高級車市場で、一定の成功を収めました。

一方、国内市場では1980年代、好景気の後押しもあり、ユーザーはより高級志向に。ハイソカーブームにより、トヨタ・マークⅡ/チェイサー/クレスタ(X70型)、トヨタソアラ(初代Z10型/2代目Z20型)、日産・レパード(初代F30型/2代目F31型)などの上級車種が大ヒットしました。
さらに、かつては会社の重役車やハイヤーのイメージが強かった、トヨタ・クラウン(7代目S120型/8代目S130型)や日産・セドリック/グロリア(Y30型/Y31型)などの高級車も、好調な売り上げを記録。1988年に発売された日産・シーマ(初代Y31型)は、そのさらに上級車種でしたが、「シーマ現象」と言われるほどの爆発的なヒットを記録。

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専ら北米向けに開発されたLSは、トヨタの伝統的な高級車であるクラウンの存在や、国内市場における方向性の差異などから、当初国内での販売は予定されていませんでした。しかし、シーマの大ヒットを受けて高級車市場は拡大傾向にあり、クラウン以上の高級車を求めるユーザーの声に応えるために、「セルシオ」の名称で1989年10月に国内販売を開始しました。

高級車に欠かせない上質な乗り心地を実現するサスペンションは、4輪ダブルウィッシュボーン式。「A仕様」はコイルサスペンション、「B仕様」には路面状況に応じてダンパーの減衰力が瞬時に切り替わる電子制御サスペンション「ピエゾTEMS」を初採用しました。さらにトップグレードの「C仕様」には、さらにスムーズな乗り心地を実現した電子制御エアサスペンションを装備。

エンジンは、セルシオのために開発されたV8ユニットで、1989年8月からクラウンに先行搭載された「1UZ-FE型(V型8気筒DOHC・3968cc)」。北米仕様の250psに対して、国内仕様はチューニングを見直して260psにまで引き上げられました。
トランスミッションは、最新の電子制御システムECT-iを採用した4速AT。

 
 
 
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ボディサイズは全長4995mm×全幅1820mm×全高1400/1425mmで、ショーファードリブンを除いて国産車最大クラス。直線基調ながら丸みを帯びた典型的な3ボックスセダンで、厚みのあるボディが高級感を演出しました。厚みを持たせサイドまで回り込ませたライト類に、大きなグリルが特徴で、グリル中央には新たなトヨタCIマークを初装着しました。
ボディ塗装も、従来とは異なる塗料と工法で施工されており、高級感や耐久性は従来の高級車より数段上でした。
当時の流行だったハードトップではなく、プレスドアを採用したセダン。

内装も高級感を感じさせるもので、最大の特徴は自発光式メーターを国産車で初採用したこと。従来のアナログメーターに代わる装備としてデジタルメーターが採用されてきましたが、セルシオでの採用以降はこれが自発光式メーターに代わるようになりました。キーをONにすると、ブラックアウトされたメーターパネルに、針と文字板が浮かび上がる姿は、高級感溢れる演出であり、視認性も良好。

マイクロコンピューターによって快適に温度をコントロールできるオートエアコンを標準装備。吹き出し口の形状や位置も研究され、後席用のクーラー吹き出し口も装備されました。
また、後席にもパワーシートを用意し、マッサージ機能やヒーターも内蔵しました。後席中央のアームレスト内にはエアコンやオーディオなどを操作できるスイッチ類を配置。

 
 
 
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前述のとおり「A仕様」「B仕様」「C仕様」が用意され、C仕様には後席居住性重視の「Fパッケージ」を設定。価格は455万円~620万円に設定されました。バブル真っ只中という時代背景もあり、最も人気だったグレードは、なんとトップグレードの「C仕様」。お金が溢れていた時代というのが良く分かります。

セルシオは、国内向けに開発されたシーマよりも、ボディサイズも排気量も大型なものとなったため、日産はインフィニティQ45を、セルシオ発売翌月の1989年11月に発売して対抗。日産の北米向け高級ブランド「インフィニティ」から「Q45」として発売する高級セダンを、国内にも同時に導入したものでしたが、その特徴だったグリルレスのデザインや、高級車の象徴だった木目パネルを使用しなかったことなど、高級車らしくないと不評。セルシオを脅かす存在にはなれませんでした。

1991年4月には、安全性向上のため、サイドドアビームとシートベルトウォーニングを標準装備化。サイドドアビームは、今となっては当たり前の安全装備となりましたが、側面からの衝突に対して乗員を保護する役割を持つ、ドア内側に装着される補強材のこと。

 
 
 
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1992年8月にマイナーチェンジ。フロントグリルの格子形状やハイマウントストップランプの変更、サイドステップパネルのデザイン変更など、外観上の変化は軽微で、主に装備の充実化を実施。15インチだったホイールは16インチを標準とし、ブレーキローターを大型化したほか、助手席エアバッグをオプション設定し、安全装備を充実させました。また、GPSカーナビ対応のエレクトロマルチビジョンもオプション設定。価格は480万円~653万円に値上げされました。

1994年10月、2代目XF20型にバトンタッチして販売を終了しました。
その後、2000年に発売された3代目XF30型は2006年に生産終了し、国内でも「レクサス」ブランドが立ち上がり、「LS」として再スタートを切り、現在に至っています。

バブル景気に後押しされる形で生まれた日本のプレミアムセダン。高い静粛性や品質、そしてそれを低コストで実現したことは、世界中のメーカーに影響を与えたと言われています。
さらには、大衆車メーカーと思われていた日本の自動車メーカーが、北米の高級車市場で成功を収めたことは、例えばフォルクスワーゲンもプレミアムセダンやプレミアムSUVに進出するなど、世界の大衆車メーカーに多大な影響を与えたのです。

 

 

 

【諸元】

 

 

トヨタセルシオ(初代XF10型)

全長×全幅×全高 4995mm×1820mm×1400/1425mm(~1992.8)
4995mm×1830mm×1410/1430mm(1992.8~)
ホイールベース 2815mm
乗車定員 5名
エンジン 1UZ-FE型 V型8気筒DOHC 3968cc(260ps/5400rpm)
駆動方式 FR
トランスミッション 4AT
タイヤサイズ 215/65R15
225/60R16