【ダイハツ】ムーヴ(初代L600/610型)
大ヒットを記録したスズキ・ワゴンRの登場から約2年後、同コンセプトでダイハツが開発したのがムーヴ。ワゴンRとの差別化を作ることが出来たのは、後発ならでは。
両車とも好調な販売を見せ、熾烈な販売競争が始まりました。
【ムーヴ(初代L600/610型)の歴史】
1993年9月に発売されたスズキ・ワゴンR(初代CT21S/51S/CV21S/51S型)は、今や軽自動車のスタンダードともなった軽トールワゴンの先駆者。床面は低く、着座姿勢は高くしたことで、限られた室内空間を有効に活用することができ、さらに視認性や解放感を向上させることも出来ました。たちまち人気となったワゴンRは、空前の大ヒットを記録していました。
ダイハツはこれに対抗すべく、ミラ(4代目L500/510型)をベースにしたトールワゴンを開発。これには諸説あり、ダイハツの方が先に開発を進めていたとの話もあります。
ワゴンRは、床面を二重構造にしてフラット化していたため、既存の乗用車であるアルトやセルボと比べると高い床面となっていましたが、ムーヴはミラのプラットフォームをそのまま流用したため、床面が低く、結果として室内高を高く確保することが出来ました。
搭載されたのは、電子制御キャブレター仕様で52psの「EF-GL型(直列3気筒DOHC・659cc)」、インジェクション仕様で55psの「EF-ZL型(直列3気筒DOHC・659cc)」、ターボ付きで64psの「JB-JL型(直列4気筒ICターボDOHC・659cc)」の、3種類。トランスミッションには、全グレードに5速MTが設定されており、ターボ車には4速ATが、NA車には3速ATが用意されました。尚、AT車とMT車で4WDの方式が異なり、前者がフルタイム4WD、後者はパートタイム4WDでした。
限界まで短くされたボンネットに、大きなグラスエリアを持つキャビンなど、ワゴンRと同様の作り込みがされた2ボックススタイルですが、当初から5ドアが標準とされたことや、リアハッチが横開きであることが相違点。
デザインは、イタリアのI.DE.Aというデザイン会社と、ダイハツの合作。I.DE.Aはイタリア車を多く手がけており、アルファロメオ・155やランチア・デルタなどが代表作です。
Aピラーからフロントバンパーに至るキャラクターラインや、非常に薄いフロントグリル、縦型のリアコンビネーションランプなどがデザイン上の特徴でした
インパネはミラのものが流用されているため、着座位置はミラと同様。これは着座位置を高く専用設計されたワゴンRとの相違点でした。一方で、ワゴンRにはなかった後席のスライド機構を備えたことで、後席の足元空間を広くすることが出来ました。
1995年8月デビュー時のグレード展開は、キャブレター仕様のFFが「CA」「CG」「CL」、インジェクション仕様のFFが「CX」、4WDが「CS」、ターボ車が「SR」。さらにインジェクション仕様の4WDには、RV風の装備を施した「Z4」もラインナップ。
1996年5月には、運転席SRSエアバッグやパワードアロックを全車に標準装備。新たに3気筒のターボモデル「SR」を設定し、従来のSRは「SR-XX」とされました。「EF-RL型(直列3気筒ICターボDOHC・659cc)」が搭載され、64psを達成。また、廉価グレードだったCAは早くも廃止され、CSの装備内容も向上されました。
1997年5月、フロントグリルやフェンダー形状を変更し、スポーティに仕上げた「カスタム」シリーズを追加しました。さらにはローダウンサスペンションを搭載して車高を15mm低く設定し、エアロパーツやアルミホイールなどを装備した「エアロダウンカスタム」も設定。
標準シリーズでは、アンバーだったフロントウインカーはクリア化され、その横のガーニッシュもクリアタイプに変更。
CSはカタログ落ちし、代わりにCLに4WDを設定。CXのATは4速化されました。
12月にマイナーチェンジを実施し、SRは廃止され、SR-XXは3気筒ターボに変更。新たに4気筒ターボを搭載した「エアロダウンカスタムXX」を追加しました。また、CLはインジェクション仕様に変更された他、装備等の見直しが行われました。
1998年10月、軽自動車規格の改正に伴って2代目へフルモデルチェンジ。
スポーティ路線が好評だったムーヴは、以降も標準シリーズとカスタムシリーズを設定し、現代まで踏襲し続けています。ワゴンRはこれに応戦する形で、2代目にはRRシリーズを追加し、さらに販売競争は激化していきました。
軽自動車にスポーティなシリーズを設定する手法は、ダイハツの後発モデルであるタントなどにも用いられたほか、他メーカーでも一般化し、スズキではパレットSWやスペーシアカスタム、ホンダではN BOXカスタムなども同様。
かわいらしいモデルを好む女性ユーザーにも、スポーティなモデルを好む男性ユーザーにも、様々な層の受け皿になれるよう、軽自動車の多様化を現したものであり、軽自動車がファミリーカーとしても使われるようになった証でもあります。ワゴンRで切り開いた軽トール市場は、ムーヴの登場によって多様化を迎えたのでした。
【諸元】
ダイハツ・ムーヴ(初代L600/610型)
全長×全幅×全高 | 3295mm×1395mm×1620/1645mm |
3295mm×1395mm×1695/1720mm(リアスポイラー装着車) | |
3295mm×1395mm×1680mm(エアロダウンカスタム) | |
ホイールベース | 2300mm |
乗車定員 | 4名 |
エンジン | EF-GL型 直列3気筒DOHC 659cc(52ps/7200rpm) |
EF-ZL型 直列3気筒DOHC 659cc(55ps/7500rpm) | |
EF-RL型 直列3気筒DOHC ICターボ 659cc(64ps/7500rpm) | |
JB-ZL型 直列4気筒DOHC ICターボ 659cc(64ps/6800rpm) | |
駆動方式 | FF/4WD |
トランスミッション | 3AT/4AT/5MT |
タイヤサイズ | 145SR12 |
145/70R12 | |
145/65R13 | |
155/65R13 | |
155/70R13 |