【スバル】アルシオーネ(初代AX型)
スペシャルティカーに沸いた1980年代半ば。スバルからデビューしたのがアルシオーネでした。
国産車トップの空力性能、渾身の最新技術、そして途中追加されたスバル初のフラット6エンジン。しかし、当時としては奇抜な内外装を前に飛びつくユーザーは少なく、販売は振るいませんでした。
【アルシオーネ(初代AX型)の歴史】
1980年代の国内市場はスペシャルティカー、いわゆる「デートカー」に沸いていました。1979年発売の日産・シルビア(3代目S110型)を筆頭に、いすゞからはピアッツァ(初代JR120/130型)が1981年に、同年にはトヨタ・セリカ(3代目A60型)とその6気筒モデルであるセリカXX(2代目A60型)、1982年は三菱・スタリオン(A180型)と、ホンダ・プレリュード(2代目・AB/BA1型)が発売、1983年にはシルビア(4代目S12型)がモデルチェンジ。このクラスだけでもこれだけの車種が毎年のようにデビューし、人気競争を繰り広げていました。
そして1985年にこのクラスに足を踏み入れたのがスバル・アルシオーネ。1月のデトロイトモーターショーで初披露された際には「スバル・XT1800」と名乗り、スバルとしては初の海外先行発売車種となりました。
水平対向エンジンとリトラクタブルヘッドライトの採用により、低いノーズを実現し、極端なウエッジシェイプのスタイルとすることができた反面、日本市場では奇抜過ぎてあまり受け入れられませんでした。ただこの奇抜なスタイルによって、空力性能を表すCd値はFF車で0.29を実現。当時の国産車ではトップの数値をマークしました。
基本的にはベースとなったレオーネのプラットフォームを流用。エンジンは、レオーネと共通の「EA82型(水平対向4気筒SOHCターボ・1781cc)」が搭載され、最高出力は120ps。
駆動方式とトランスミッションは、FF(5MTのみ)と4WD(5MT/3AT)が用意されました。4WDの3AT車には、大きなGが掛かったり、ワイパー作動によって雨天と判断された際に、自動的にFFから4WDに切り替わる方式を採用。一方で5MT車の4WDシステムは、レオーネと同様のパートタイム4WDでした。
低い着座位置に高いセンターコンソールを配したインパネは、かつて飛行機製造メーカーだったスバルらしい斬新なデザイン。L字型のスポークを持つ左右非対称ステアリングの奥には、スイッチ類が並ぶ「コントロール・ウイング」が整然と並び、デジタル表示のメーター類に、ガングリップタイプのシフトレバーなど、まさに飛行機のコクピットを想像させるもの。
当時のスバルのフラッグシップモデルとしてデビューしたアルシオーネでしたが、レオーネと共通部分が多いことによるフラッグシップ感の乏しさと、ライバル各車と比較して価格が高めだったことも災いし、発売当初から、深刻な販売不振に陥ることになります。
その後、1986年3月にはFFにも3AT車を追加。
そして1987年6月のマイナーチェンジで、新グレード「VX」を発表。スバル初の6気筒エンジンである「ER27型(水平対向6気筒SOHC・2672cc)」を搭載して150psを発揮し、ACT-4と呼ぶ電子制御式フルタイム4WDを採用した、フラッグシップに相応しいモデル。
ACT-4は、トランスミッションの後部に配置されたトランスファーの油圧を、路面や走行状態、アクセル開度に応じて最適なトルク配分になるよう、コンピューターがパルス制御でコントロールするもので、悪路走破性のための4WDではなく、安定したスポーツ走行のための4WDシステム。当時世界中のメーカーが注目していたスポーツ4WDシステムを実現できたのは、乗用4WDのパイオニアであるスバルならではのことでした。ACT-4は、1.8L・4WD・AT車にも搭載されました。
このマイナーチェンジでは他にも、2.7L車と1.8L・AT車のサスペンションが、電子制御式2段階ハイトコントロールを装備するエアサスに変更。1.8L・AT車のトランスミッションは、3ATから4AT化されました。
しかしこの頃のライバル車は、2.0Lの4気筒クラスでもDOHCターボ車は200ps前後に、3.0Lクラスの6気筒車においては250ps以上を発揮する時代に変わっており、馬力競争とも化していた当時の国内市場においては、150psの大排気量6気筒NAエンジンのフィーリングは受け入れられませんでした。
1989年8月には受注生産体制に移行した後、1991年9月、アルシオーネSVXへフルモデルチェンジ。6年間で生産されたのは輸出分も含めても約9万台でした。
数々の最新技術を盛り込んだスバルのスペシャルティカーは、国内市場でも北米市場でも、成功を収めることは出来ませんでした。しかし、水平対向エンジンと4WD技術のスバルを世間にアピールし、90年代以降のレガシィやインプレッサの成功にこぎつけるには、アルシオーネの存在意義は非常に大きかったと言えるでしょう。
【諸元】
スバル・アルシオーネ(初代AX型)
全長×全幅×全高 | 4450mm×1690mm×1335mm(1.8L) |
4510mm×1690mm×1335mm(2.7L) | |
ホイールベース | 2465mm |
乗車定員 | 4名 |
エンジン | EA82型 水平対向4気筒SOHCターボ 1781cc(120ps/5200rpm) |
ER27型 水平対向6気筒SOHC 2672cc(150ps/5200rpm) | |
駆動方式 | FF/4WD |
トランスミッション | 3AT/4AT/5MT |
タイヤサイズ | 185/70HR13 |
205/50R14 |