【日産】チェリー(初代E10型)

1970年に発売された日産・チェリーは、日産初のFF車でした。開発を担当したのは旧プリンス自動車の技術陣。

まだ未成熟でクセの強いFFの乗り味や、個性的なスタイリングは、本来のターゲットであったエントリーユーザーにはあまり受け入れられませんでしたが、クルマ好きの心をくすぐるクルマとなり、スポーティな路線で評価されることになりました。

 
 
 
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 【チェリー(初代E10型)の歴史】

 

 

 

イカー時代が到来した1960年代後半の国内市場。トヨタ・カローラと日産・サニーが熾烈な販売競争を繰り広げ、エンジンのパワーアップ合戦や、ボディの大型化合戦を繰り返した末、「大衆車」は徐々に車格を上げていくことになりました。

サニーの上級化が進むにつれ、エントリーカーの空白を埋めるには、1クラス下の車の開発が必要となりました。トヨタ・パブリカに対抗するためです。
そこで、1966年に日産と合併したプリンス自動車の技術陣に白羽の矢が立ちます。プリンスは合併前、スカイラインやグロリア等の中型車に続く車種として、大衆車の開発を進めており、そこで検討されていたのがFFレイアウトだったのです。

コスト削減も必要となったため、エンジンやシャシーの一部はサニーと共用。FR車用の部品をFF車に転用するには、困難も多かったと言います。エンジンは58psの「A10型(直列4気筒OHV・988cc)」が主力で、
スポーツグレードの「X-1」には、80psを発揮する「A12型(直列4気筒OHV・1171cc)」のツインキャブ仕様が搭載されました。

トランスミッションには、コラム3MTとフロア4MTが用意され、サスペンションはフロントがストラット、リアがトレーリングアーム式による4輪独立懸架が採用されました。

大がかりな事前告知の末に発売されたのは1970年10月。当初は2ドアセダンと4ドアセダン、さらに3ドアバンの3ラインナップでデビューしました。
全長3610mm×全幅1470mm×全高1380mmのボディサイズで、セダンは「セミファストバックスタイル」という斬新なスタイリング。独特なサイドウインドウの形状は「アイライン」と称され、Cピラーは富士山の形をモチーフにしたと言います。

開発時、欧州では既に主流になりつつあった3ドアハッチバックを、チェリーの主力モデルとすることが考えられていました。それは、FF採用によるスペース効率を考えると当然のこと。
しかし、当時の日本ではまるで商用車のようだと思われることが想像されたため、セダンが主力モデルとなったのです。そんな中で、本来の理想像として、世間にその姿を届けようとしたのが、3ドアバンだったというわけです。

FFの恩恵を大いに受けた3ドアバンの荷室は広々としており、荷室長1405mm×荷室幅1210mm×荷室高850mmで、荷室の地上高を低くすることが出来ました。軽量ボディによって走りも良く、ライバルとは一線を画しており、コマーシャルカーを休日はプライベートカーとして利用するユーザーに好まれました。また、バンにも4種類のオプションパッケージを設定しており、ウッドステアリングやシフトノブを備えた「ヤングパル」、専用グリルやホイールキャップを装備した「カスタムパル」、レザートップ仕様の「ファッションパル」、カーステレオやヒールマットなどを備えた「ファミリーパル」。この辺りからも、乗用車と同じような感覚でバンが販売されたことが分かります。

1971年9月、3ドアクーペを追加しました。大型のハッチゲートを備えた「プレーンバック」と呼ばれるスタイルで、ボディ後半は全体的に丸みを帯びたデザインが特徴。セダンとは異なるグリルや丸型テールライトもスタイリッシュでした。

1972年3月には、68ps仕様の「A12型(直列4気筒OHV・1171cc)」のシングルキャブエンジンを追加。

そして1973年3月、後にチェリーの代名詞ともなる「X-1R」をクーペに追加。足回りを強化した上で、165/70HR13のラジアルタイヤを履き、そのタイヤを収めるためにFRP製のオーバーフェンダーを装備しました。エンジンはX-1と共通の1.2Lツインキャブ仕様でしたが、ラジオなどをオプション化するなどで軽量化を進め、X-1よりも45kgも軽く仕上げられました。専用ステアリングやスポーツシートを装着し、モータースポーツ用のオプションも多く開発されました。

1974年9月、後継モデルとなる「チェリーF-Ⅱ」が発売されましたが、上級クラスに移行したため、E10型もしばらくは併売された後、生産を終えました。その系譜は、後にパルサーへと引き継がれることになります。

話題に富んだチェリーでしたが、発売当初を除くと販売成績はそれほど伸びず、癖の強いFFの走りや、冷却ファンの作動音の大きさ、そして何より独創的なスタイリングなどが、ファミリーユーザーにはあまり受け入れられませんでした。しかし、モデル末期に登場したX-1Rのスポーティさ、さらには「チェリーの星野」とも呼ばれた星野一義を筆頭にモータースポーツによる大活躍により、スポーツモデルを好む若年層からの支持を集めていき、評価を得ました。後継のパルサーでも人気を得た「ホットハッチ」の先祖とも言えるかもしれません。

 

 

【諸元】

 

 

全長×全幅×全高 3610mm×1470mm×1375mm(セダン)
3690mm×1490/1550mm×1310mm(クーペ)
3610mm×1485mm×1380mm(バン)
ホイールベース 2335mm
乗車定員 5名
エンジン A10型 直列4気筒OHV 988cc(58ps/6000rpm)
A12型 直列4気筒OHV 1171cc(68ps/6000rpm)
A12型 直列4気筒OHV 1171cc(80ps/6400rpm)
駆動方式 FF
トランスミッション 3MT/4MT
タイヤサイズ 5.00-12 4P(バン)
6.00-12 4P
165/70HR13(クーペX-1R)