【ホンダ】1300(H1300型)

1967年発売の軽自動車・N360で成功を収めたホンダが、小型乗用車市場への進出を狙って発売したのがホンダ・1300。

独創的なメカニズムを多く盛り込んで話題となるものの、今となっては「失敗作」とも言われることもあるが、その真意はいかに。

 

 

【1300(H1300型)の歴史】

 

 

 

 

ホンダの四輪車市場での歴史は浅く、1963年のこと。高性能エンジンを搭載した2車種、S500(小型スポーツカー)とT360(軽トラック)を発売して、世間を驚かせたのが、ホンダ四輪史の始まりでした。
そして1967年に発売したのがN360。軽自動車市場で大ヒットしていたスバル・360から首位を奪い、
高性能と低価格で爆発的なヒットを記録。そして次に進出を考えるのが小型乗用車市場、とりわけ大衆車クラスであることは極めて自然なことでした。

当時のライバルは既に出揃っており、トヨタ・カローラと日産・サニーが熾烈な販売競争を繰り広げ、マツダ・ファミリアも安定した販売台数をキープし、三菱・コルトやスバル・1000/ff-1が追いかける構図。これに対してホンダは、空冷エンジン、FF、四輪独立懸架などの独創的な発想で対抗することになりました。

N360で成功していた空冷エンジンを1300でも採用し、DDAC(デュオ・ダイナ・エア・クーリングシステム)と呼ばれる構造は、非常に珍しく、世界でも例がないものでした。シリンダーブロックの外壁を一体鋳造成型で二重構造として、その間の隙間にシロッコファンによる冷却風を通して強制空冷を行い、さらに走行中には導入風による自然空冷も行われ、併せて「二重空冷」するという構造になっていました。
また、オイル冷却でも、主に高性能車向けであったドライサンプ方式も採用されました。これらにより構造は複雑化し、空冷エンジンの本来のメリットである軽量・低コストとは、正反対のエンジンとなってしまいました。

そのエンジンは「H1300E型(直列4気筒SOHC・1298cc)」で、標準のシングルキャブ仕様で100ps。当時の1.3Lクラスの大衆車エンジンとしては高性能で、他社の1.8Lクラスにも匹敵するものでした。4キャブ仕様もラインナップされ、115psを発揮。他社の2.0Lクラスにも対抗できるエンジンでした。
シングルキャブ車は「77シリーズ」と称されて「スタンダード」「デラックス」「カスタム」「S」の4グレード、4キャブ車は「99シリーズ」となり、「デラックス」「カスタム」「S」の3グレード。
1969年4月に発表、6月頃から発売開始され、当初は4MTのみが市販されました。

12月、エンジンセッティングが変更され、77シリーズは95psに、99シリーズは110psに出力が引き下げられ、同時に柔らかすぎると評されたサスペンションセッティングも固められました。

1970年2月には、2ドアクーペを追加。2灯式ヘッドライトのセダンに対して、丸型4灯ヘッドライトが採用され、2分割されたフロントグリルが特徴的なマスクを纏ってデビューしました。シングルキャブ仕様は「クーペ7」、4キャブ仕様は「クーペ9」と呼ばれました。インストゥルメンタルパネルもクーペ専用設計で、運転席向きにオフセットされた「フライトコクピット」が特徴的でした。

 
 
 
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3月には、77とクーペ7に3AT車を追加。このAT車には横長スピードメーターや2本スポークステアリングが採用され、エンジンは80psにまでデチューンされていました。

11月にはセダンがマイナーチェンジされ、全車丸型2灯式ヘッドライトに変更(マイナーチェンジ前は、77は角形)。この時、4キャブ仕様の99シリーズは廃止されることになり、77シリーズのみとなりました。これに伴って、1300の名前がなくなり、「ホンダ・77」と改称しました。

1971年6月、クーペもマイナーチェンジを受け、セダンと同様に1300の名は外され、「ホンダ・クーペ」と呼ばれるようになりました。従来通りの丸型4灯ヘッドライトを装着した「ダイナミックシリーズ」と、セダンと同じマスクを持つ「ゴールデンシリーズ」を設定。ダイナミックシリーズは「SL」「GL」「GT」「GTL」の4グレード、ゴールデンシリーズは「スタンダード」「デラックス」「カスタム」の3グレードが設定され、4キャブエンジンを搭載するのは「GTL」のみとなり、残りのグレードにはシングルキャブのエンジンが搭載されることになりました。

この頃になると、ライバル車は相次いでモデルチェンジを実施し、世代交代しており、1300シリーズの販売台数は落ち込みました。さらに、空冷エンジンでは排ガス規制に対応しきれないことも分かっており、
ホンダはついに水冷エンジンへとシフト。1972年には新世代の車と称されたシビックを発売しました。

一方の1300シリーズの存在意義は薄れ、1972年9月には生産を終了。
11月、シビック水冷エンジンを拡大して換装され、ホンダ・145と名乗って再スタートしましたが、セダンは1973年、クーペは1974年には生産を終了し、ひっそりとモデルライフを終了しました。

独創的だった1300シリーズは結果的に失敗作となってしまいましたが、その失敗からシビックという大ヒット作が生まれたと言ってもいいのかもしれません。まさに「失敗は成功のもと」。

 

 

【諸元】

 

 

ホンダ・1300(H1300型)

全長×全幅×全高 3885mm×1465mm×1345mm(セダン)
4140mm×1495mm×1320mm(クーペ)
ホイールベース 2250mm
乗車定員 5名
エンジン H1300E型 水冷直列4気筒SOHC 1298cc(80ps/6500rpm)
H1300E型 水冷直列4気筒SOHC 1298cc(95ps/7000rpm)
H1300E型 水冷直列4気筒SOHC 1298cc(100ps/7200rpm)
H1300E型 水冷直列4気筒SOHC 1298cc(110ps/7300rpm)
H1300E型 水冷直列4気筒SOHC 1298cc(115ps/7500rpm)
駆動方式 FF
トランスミッション 3AT/4MT
タイヤサイズ 6.20H-13 4P